ソフトウェア開発に関わっていると、「ユーザーストーリー」や「ユーザーストーリーマッピング」という言葉を聞くことがあると思います。
「ユーザーストーリー」という単語の意味は (少なくとも日本人には) 直感的でなく、アジャイル開発などの書籍で定義を読んだことがある人とそうでない人で、全然話が噛み合わなかったりします。
この記事では、「ユーザーストーリー」と「ユーザーストーリーマッピング」という誤用されがちな 2 つの言葉について解説します。
結論
まず結論をまとめると以下の通りです。
- 「ユーザーストーリー」は、「ユーザーのストーリー (= ユーザーの感情や行動の流れ)」を指すのではなく、ユーザーの行動の流れの中で登場する「ソフトウェアの要求の 1 つを一言で表したもの」です
- 「ユーザーストーリーマッピング」は、「ユーザーの感情の流れと機能の対応を整理するもの」ではなく、「ユーザーの行動の流れに沿ってユーザーストーリー (ソフトウェアの要求) を整理するもの」です
以下、これら 2 つについて説明していきます。
「ユーザーストーリー」とは
「ユーザーストーリー」という言葉を始めて聞いたとき、「ユーザーのストーリー (= ユーザーの感情や行動の流れ)」という意味だと思った方は多いのではないでしょうか。
これは実は違ったりします。
アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~ によれば、
ユーザーストーリーは、システムについてユーザーまたは顧客の視点からフィーチャの概要を記述したもの
であり、例えば
「<ユーザーの種類>として、<機能や性能>がほしい。それは<ビジネス価値>のためだ」
のような形式で記述すると書かれています。
つまり、非常に雑に言うと、ほしい機能リストの 1 つ 1 つがユーザーストーリーです。
以下の記事のように「ユーザーストーリー」という言葉を「ユーザーのストーリー (= ユーザーの感情や行動の流れ)」のような意味で使っている例もなくはなかったですが、ほとんど見つかりませんでした。
よくよく考えてみると、「ユーザーのストーリー」という意味であれば「ユーザーズストーリー」なのではないでしょうか。1
「ユーザーストーリーマッピング」の目的は何か
「ユーザーストーリーマッピングをしよう」という話になったとき、その目的が
- 「ユーザーの感情の流れとソフトウェアなどの対応を整理すること」
と考える方と
- 「ユーザーの行動の流れに沿ってユーザーストーリー (ソフトウェアの要求) を整理すること」
と考える方がそれぞれいるのではないでしょうか。
どちらも考え方としては必要だとは思いますが、「ユーザーストーリーマッピング」の目的としては、後者の「ユーザーの行動の流れに沿ってユーザーストーリー (ソフトウェアの要求) を整理すること」が一般的です。 さらに言えば、ユーザーストーリマッピングは、ユーザーストーリー (ソフトウェアの要求) を一覧化して、優先順位順に並べるために使われます。
一方で、前者の「ユーザーの感情の流れとソフトウェアなどの対応を整理するもの」は、「カスタマージャーニーマップ」または「エクスペリエンスマップ」または「UX マップ」と呼ぶのが一般的なようです。
もちろん、工夫によっては 1 つのマップで両方の内容を表現できるかもしれませんが、その場合は別々のマップにまとめた場合と比べて厳密性を欠く表現になりやすくなったりすると思います。
私が調べた限りの一般的な定義は上記の通りですが、言葉の定義は変わっていくものでもあります。 「◯◯マップ」の作成は、メンバーで目的などの認識を合わせてから進めるとよさそうです。
リーン・UX とアジャイル開発における「◯◯マップ」
上記のような「感情の流れを整理するマップ」と「ソフトウェアの要求を整理するマップ」という 2 つのマップの違いは、リーンや UX と、アジャイル開発との違いとも近いと思います。
リーンや UX というのは、「何を作るべきなのか」についての考え方です。 ユーザの感情の流れに注目して何を作ればユーザに受け入れられるのかを考えたりするために、「カスタマージャーニーマップ」や「エクスペリエンスマップ」などが登場します。
一方、アジャイル開発というのは、「どう作るべきなのか」についての考え方です。 たくさんある要求をどの順番で作っていくべきなのかを整理するために、「ユーザーストーリーマップ」を作ります。 (もちろん、リーンや UX の文脈であっても MVP を定義するために「ユーザーストーリーマップ」を作るという考え方はあります)
これらの違いは、Inspired日本語版 - 第3章 プロダクトマネジメント VS. プロジェクトマネジメント に書かれている
プロダクトマネジメントの役割が、価値のある、使い勝手のいい、実現可能な製品を見いだすことにあるのに対して、プロジェクトマネジメントの役割は、製品を市場に送り出すことに尽きる
という、プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントの違いとも近いところがあると思います。
リーン・UX とアジャイル開発であったり、プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントであったり、これらはどちらか一方を選ぶといったものではなく、両方があってこそ適切なモノを適切に作ることができるものです。 今の場面ではどの観点で整理したいのかを考えつつ、適切な道具を選べるといいのではないでしょうか。
参考
書籍
- アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~
- エクストリームプログラミング
- アジャイルサムライ−達人開発者への道−
- ユーザーストーリーマッピング
- リーン開発の現場 カンバンによる大規模プロジェクトの運営
- リーン・スタートアップ
- INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
- マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る
Web
- ユーザーストーリー駆動開発で行こう。
- ユーザーのインサイトに迫るための4つの道具
- 「カスタマージャーニーマップ」と「エクスペリエンスマップ」の違いとは?
- ユーザーストーリーとDtoD、シナリオとカスタマージャーニーなんかのまとめ(&偏見)
-
英語は得意でないので、間違いでしたらご容赦ください
↩